エヴァン・モウズリー『海事の第二次世界大戦史』、Evan Mawdsley, The War for the Seas: Maritime History of World War Ⅱ, Yale University Press in 2019

2.ナチスノルウェーへの侵攻(1940年)とダンケルク撤収戦

いままでノルウェーのことを何も知らないできたが、この本を読むと、トロンヘイム、ベルゲン、ナルビクといった地名とともに、フィヨルド海岸の北の国の風景が目に浮かんでくる。何かの映画で見た記憶がかろうじて蘇る。フィンランドスウェーデンであったか。想像しにくい分、とても魅惑的に思える。
中立国ノルウェーは、抵抗らしい抵抗もすることなく、ナチスの占領を受け入れざるを得なかった。ノルウェーナチスにとりソフトターゲットであり、侵攻はナチスのヨーロッパ支配への初期行動であった。
しかし、おもに北海での独・英間の戦いは、双方にとり損失の大きなものだった。英国はその海軍力の優位にもかかわらず、開戦当初の不慣れな面があり失敗を犯し、また、ドイツも英国の海軍力の過小評価により有力な艦船を失うのだ。戦艦ビスマルクを失うと、もはやドイツは大西洋での軍艦を送り出すことはできなくなったのだ。
有名なUボートの攻撃もナチスドイツの海軍力の弱体に由来する苦肉の策なのだ。
ドイツは陸の長い国境に囲まれた国である。そして、海軍力の増強は時間を必要としたが、ナチスの政権にとってその時間的余裕は十分でなかった。
英国も海軍力をダンケルクに集中しなければならなかった。
ナチスに十分な海軍力があれば、ダンケルクの英仏軍の撤収は不可能だったろう。
ナチスの英国本土への侵攻を不可能にしたのもドイツの海軍力なのだ。
ヒトラーは、そもそも海軍力の重要性について考えをもっていなかった。逆に、チャーチルは、海軍大臣も務め、海事について優れた見識をもっていた。
ダンケルクの撤収戦において、英国の民間の船舶が主要な役割を担った、というのは正確ではないと言う。それら民間の小船舶は、沖に待つ駆逐艦までのの兵員の輸送に活躍したに過ぎない、のだと。
(つづく)