エヴァン・モウズリー『海事の第二次世界大戦史』を読む 3

真珠湾攻撃から山本五十六の死まで

エヴァン・モウズリー『第二次世界大戦海戦史』を読み続ける。真珠湾攻撃からガダルカナル戦まで。日本の目もあてられない悲惨な戦いを読むことは耐え難いかとも思っていたが案外読める。連合国側も決して気安い戦いではなかったのだ、と知る。
真珠湾に関していえば、日本の開戦布告なき奇襲攻撃の非道よりも、連合艦隊の行方を把握できていなかった決定的な軍事的ミスが、米側にとっては手酷いショックだった。
世界で三番目の海軍力をもつ日本の力も改めて知る。貧しい日本がどれだけの犠牲を払ってこの海軍を保持していたのかと思うと、何とも複雑な気持ちになる(当時の日本のGDPは、米国の5分の一)。
ミッドウェー海戦における米国の勝利は、日本側の不運に助けられた面も多い。大局的には、米国の南太平洋における優位は進行していったとしても、ミッドウェーで日本が主力航空母艦を失わなければ、その後の戦況はもう少し違ったものになっていた可能性は高い。(戦史はタラ・レバを引き寄せる。)
ソロモン海戦の記述が素晴らしい。日本の艦艇の侵入に対して、「緊急事態、重大注意、不明の艦船がわが基地湾内に侵入」と叫ぶのだ。
ガダルカナル戦は、これまでのイメージだと、日本兵がジャングルの中で、飢え、病気で苦しみ死んでゆく姿しか思い浮かばなかったが、『海事の第二次世界大戦史』では、米国側の苦戦、判断ミス、幸運が語られていて、戦争というものの実際の姿が伝わってくる。日本軍の飢えと病気についても、この本は触れているが、体験的というよりは、客観的な事実としてサラリと流される。…ガダルカナル戦の悲惨を語るのは、ひょっとすると日本の戦後の反戦思想に根差す記述なのかと思えてくる。
山本五十六の撃墜死は、米国側の暗号解読によってもたらされた。この攻撃について、最終承認をニミッツ提督がおこなった。暗号解読を日本側に察知されることよりも、山本五十六の死をニミッツは求めた。大鑑巨砲主義から航空母艦による海戦の有利を山本は領導していた。山本が傑出した軍事指導者であることを米国は認識していたのだ。
連合国側が枢軸側よりも確実に優位であったことの一つに暗号解読がある。山本五十六のブーガンビルにおける撃墜も、米英によるUボート掃討も、ラジオ通信の暗号解読によるところが大きい。ところで、思うのだが、連合国側の暗号解読の優位は、何というか、民主主義の、人々の発想の自由を、何か遊び心に通じる何かを私は考えてしまう。パズルを解くような楽しみが、軍事上の有力な武器になるのは、やはりその社会が自由であるからだろう。…この本では、ナチスが、民間のアウトサイダーから知見を得ることにきわめて拙かったと総括している。
(つづく)