2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

“ハイフォン・センス”

“Hyphone-sensitive”という投稿記事(TSL2017年12月15日号)が面白かった。ハイフォンをめぐる問題圏について議論しようとしているのだ。何でもウッドロー・ウィルソンは、ハイフォンこそが、もっとも非・アメリカ的なものだと言った。なら、ハイフォンの使用の…

岡崎乾二郎『抽象の力』(亜紀書房、2018)

美しい装丁に目がとまる。現代美術批評家(煮ても焼いても食えぬ神学者たち、という偏見に私は捕らわれている)の毒のなかに紛れ込んゆくで怖れを感じながらページをめくる。…近代日本のモダニズムへの突入を夏目漱石の文学理論「f+ F」から説き起こす(fは日…

国分巧一朗『スピノザの方法』(みすず書房、2011)

スピノザには非常に熱心なファンが多いと聞いたことがある。私も、スピノザの熱心なファンの幸福にあやかりたくて、『エチカ』には、何度か挑戦した。しかし、そのたびにはじき返された。『エチカ』という素晴らしい本がこの世にはあるのだが、自分の知力で…

『聖書』

1977年に、「現在、もっとも過大評価されている本、もっとも過小評価されている本」というアンケート特集をTSLはおこなった。ロラン・バルトは、過大評価はアンドレ・マルローで(前世紀におけるヴィクトル・ユーゴーと同じ)、過小評価はレイモン・クノーだと…

家島彦一『海域からみた歴史―インド洋と地中海を結ぶ交流史』(名古屋大学出版会、2006)

この大きな本(本文781頁)を毎日、少しづつ読んでいる。すこぶる面白い。読んでいると、ホルムズ海峡が、紅海が、アデンが、バーブアルマンデブ海峡が目に浮かんでくる。(無論、私はその地を実際に訪ねたことはない。) 学への一途な情熱もすごい。私にとって…

大原瞠(みはる)『住みたいまちランキングの罠』(光文社新書)

フツーの良い人たちが持っている、作られたイメージを打ち砕く良書かも知れない。ガラの悪いところは(例えばヤンキーの多いとされる足立区)、ガラの悪くないところ(皆が住みたがる吉祥寺、武蔵野市)にくらべ犯罪率が高いなどとは決して言えないのだ、と言う…

E. コセリウ『言語変化という問題』(田中克彦訳、岩波文庫)

早朝、TSL(タイムズ文芸付録)を読んでいると、今、米国起源の語彙・文法を使わないで、もはや英国人は文章を書けないのだ、と言う。なぜだか、とても心にとまった。…言葉は国力や権力と無関係ではないのは無論、正文法も浸食される。 「言語変化という問題…

梨木香歩『海うそ』(岩波現代文庫)

南九州の“遅島”は、嘗て西の修験道の本拠地として知られていた。その修験道は、その伝統ともろとも、忽然と姿を消す(廃仏毀釈のためだろうか)。…「私」の主任教授は、この島の調査を行っていた。だが、その調査も中途で放棄されたままだった。今、「私」は、…

カストロのキューバ

今朝のTSL(タイムズ文芸付録)、キューバ革命の記事が読めた。…カストロのキューバ革命の速やかな成功は、腐敗した政権にうんざりしたmoderateな人々の支持によるところが大きい。が、勝利を手にしたカストロは、その後、そのmoderateな人々の分断・支配に傾…

角幡唯介『極夜行』(文芸春秋社2018)

ずーと夜、ずーと昼という世界があるのだ。探検においてスポーツに還元されない要素は、何なのか。…橇を引く犬達を食料計画にもり込むことは、スポーツ的ではない。小屋にデポした、ドッグフードを盗まれるのも、スポーツ的ではない。極地を旅するために犬橇…

キルケゴール『死にいたる病』(斎藤信治訳、岩波文庫)

「この病は死にいたらず」(ヨハネ福音書)、しかし、ラザロは死んだ。死にいたる病とは、絶望のことである。・・・このような『聖書』についての解釈がつづくなら、この本はもっと面白い。だが、あとは「絶望」についての哲学的思弁が繰り返される。絶望を感…

車谷長吉『人生の救い』(朝日文庫)

純文学的大衆路線 貧乏は好きですが破滅を目指したことはありません。人生に一夜漬けの解決法などありません。私(車谷)は、作家になるために一日四時間以上眠ったことはありません。作家は、書くこと以外のすべてを捨てなければなりません。痛みを伴うことだ…