2019-05-01から1ヶ月間の記事一覧

レオ・アフリカヌスあるいは『トリックスター・トラベル』7

7.アル・ワッザーンの沈黙歴史(学)は、想像するヒントを提示してもらえれば十分であって、あまり説明をしてもらいたくない、と思うことがしばしばである。そのような考えに似て、歴史(学)における沈黙が魅惑的に思える時がある。ナタリー・デーヴィスのこの…

レオ・アフリカヌスあるいは『トリックスター・トラベル』6

6.トリックスターとしてのアル・ワッザーン アル・ワッザーンは、友人をむち打つ話と住みかを変えて税を免れる鳥の話を好んだ。友人をむち打つ話というのは、ある男がむち打ち刑の判決を受けるのだが、そのむち打ち刑の執行人が実は友人で、男は友人の執行人…

アシュヴァ・ゴーシャ『ブッダチャリタ』(梶山雄一、小林信彦、立川武蔵、御牧克己訳注、講談社学術文庫)

カニシカ王(2世紀)の時代に、バラモン教から仏教徒に改宗した学僧が、サンスクリット語で、ブッダの誕生から、遺骨の分配までを綴った。北伝系統の讃仏文学の傑作と言われる。後半部は、サンスクリット原文が失われているためチベット語訳からの翻訳と言う。…

兼好『徒然草』(島内裕子校訂・訳)

今回、兼好の『徒然草』を、通読してみて、大変に面白かった。兼好には、いろいろな側面があるけれども(歌詠みや、有職故実についての拘りなど)、私にとってとりわけ興味深かったのは、いわゆるコミュニケーションへの絶望(人は分かりあえない)と孤独を語っ…