家島彦一『海域からみた歴史―インド洋と地中海を結ぶ交流史』(名古屋大学出版会、2006)

この大きな本(本文781頁)を毎日、少しづつ読んでいる。すこぶる面白い。読んでいると、ホルムズ海峡が、紅海が、アデンが、バーブアルマンデブ海峡が目に浮かんでくる。(無論、私はその地を実際に訪ねたことはない。) 学への一途な情熱もすごい。私にとっては、読んでいてそれだけで面白い、数少ない今の学者の本だ。
思い出すのは、オアシスを見つけられず、渇きの恐怖のなかで死んでゆくメッカ巡礼経路についての話、過酷な砂漠の旅にアラブの宗教を思う。また、政治・外交もになうイエメンの有力商人の話も面白い。御用商人ではないのだ。昨日は、アルジェ・チュニジアの海岸沖でとれる赤珊瑚の流通の物語を読んだ。赤珊瑚はとりわけインド、中国で珍重された。中世おける物品のダイナミックな移動と人々の赤珊瑚への思いを想像する。今日は、正倉院御物の白檀に刻まれた文字様のものへの解釈(それは中世イランのパフラヴィー語と、中央アジアのソグト語なのだ、という)の物語も興味深い。ただ、この海域についての本には、残念ながら、海賊についての章はない。インド洋でも地中海でも、海賊の役割は小さくなかったはずだ。