岡崎乾二郎『抽象の力』(亜紀書房、2018)

美しい装丁に目がとまる。現代美術批評家(煮ても焼いても食えぬ神学者たち、という偏見に私は捕らわれている)の毒のなかに紛れ込んゆくで怖れを感じながらページをめくる。…近代日本のモダニズムへの突入を夏目漱石の文学理論「f+ F」から説き起こす(fは日々の心象の累積、Fはそれらfを統合する抽象)。漱石から入っていくところがユニークだ。抽象とはいかなる「力」かを分かりやすく説明しようとしているのだ。…熊谷守一の“轢死”を取り上げている。スリリングな物語のようだ。画家は、家の近くで女(性)の轢死体を目撃する。初め画家はそれをリアルに描いた。日展での出展を拒まれると、リアルな轢死体の絵をぼやかした。そしてそのぼやかしの作業に画家は憑りつかれてゆき、連作となった。…浅田彰が文章をよせている。この本には浅田の興味を惹きそうな話があふれている。そして浅田は言う、この本を読めば君の何かが更新されと。そうかも知れない。も一度立ち読みして、まだ興味が失せないないようなら、この本を買おう。