前田耕作『バクトリア王国の興亡』(筑摩学芸文庫、原著1992年刊)

「歴史は夢想させる」というヴァレリーの言葉で始まる。扉のページには、バクトリアの工房で制作された青年像の写真があり、なぜ、その像が未完に終わっているのか、疑問をなげかけている。
多くのオリエンタリストを虜にした中央アジアギリシャ植民国家の歴史について、その問題圏をコンパクトに届けてくれる。アレクサンドロスについて(アレクサンドロス・アバナシス)、イランのゾロアスター教国家について、また著者のバクトリアとの出会いについて、何の予備知識のない読者にも話が通じるように書いてくれている。…著者の実態が、研究者なのか、祖述家なのか、物語作者なのか分からない。アフガニスタンの仏教遺跡(バーミアンの大壁像)の専門家のようだが、2001年のタリバンによる石仏破壊で主とする研究フィールドを失った。ただし、この本はその事件以前の刊行で、タリバンの暴挙とは関係ない。