エヴァン・モウズリー『海事の第二次世界大戦史』、Evan Mawdsley, The War for the Seas: Maritime History of World War Ⅱ, Yale University Press in 2019

1.読み始め

二葉亭四迷の言葉「文学は男子一生の事業にあらず」を思いだす。そのとき文学者は、男子一生の仕事をどう考えていたのだろう。「戦争と革命」というようなことを私は想像するのだが…。

この本、『海事の第二次世界大戦史』は、左派的な論調で知られる“ロンドン書評”で知った。従って、軍事オタクの好む軍事史というよりは、反戦の思想による戦史、もっと言えば「政治の延長としての戦争」に記述の中心があると思っていた。しかし、この大冊(600頁)を読みだすと、違った。兵器の話、作戦のデティール、軍中枢の思惑と、戦争という現象について豊かに語っている。この大きな本に退屈しないのは、軍事の具体性を手放さず、そのうえで戦略が分析され、さらに言えば、論理を逸脱する偶然の展開がしばしば語られることだろう。

ここでひとまずの感想、戦争は血沸き肉おどるけど(その牽引力を甘く見てはいけない)、その犠牲も膨大なものなのだ、と改めて思う。一隻の艦船が撃沈されれば、数千人の人々の生命が即座に失われるのだ。
あるいは、戦争はある種、人々を聖化する。しかし、その崇高さの感覚は、犠牲の多さには到底ひきあわない。だが、そのようなことは十分に分かっているつもりでも、その膨大な、取り返しようのない損失がしばしば繰り返される。

(つづく)