オルダス・ハクスリー『知覚の扉』(河村錠一朗訳、平凡社ライブラリー)

幸福を求める人のための本は多い。しかし、それは土台ムリな話に思える。(それは、宝くじの売り場に行って、1億円当たる宝くじを1枚ください、というようなものだと、山内志郎が言っていた。) 幸福になるという問題設定が、そもそも成立しないとしても、知覚の改変によって精神の幸福状態を実現する可能性はある。その一例がドラッグであったりマインドフルネスであったりするのだろう。ハクスリーは、ありもしない幸福を求めるのではなく、感覚の扉をあけることによって得られる至福を求める努力をどうしてしないのか、と言いたいようだ。(ドラッグは、個人を世間的には破滅させる力がある。そのリスクをうまく回避できれば、感覚の扉をあける様々な試みは、充分に推奨されるべきなのか。私は、そうは思えない。完全に安全な仕方で感覚の扉をあけることはできないからだ。感覚の扉に触れることは、危険と向き合うことと等しい、ように思える。)
この本は、感覚の扉をあけるためのヒントを述べた本だ。メスカリン、ペヨーテ、ストロボ光等々が挙げられている。…アメリカにおけるサイケデリックなるものの登場に際して、この本は大きな影響を与えた。健全なアメリカに負の陰影を導きいれた。その点で、『知覚の扉』は偉大な本であるかも知れない。