ミルトン/TSL(タイムズ文芸付録)2017年12月8日号より

ミルトンの生きた時代(17世紀)に、『コーラン』の英訳がでて、それは当時のベストセラーだった(コーラン』を当時読んでいたのは、カルロ・ギンズブルグ描くところのあの有名な粉屋だけではなかった)。ミルトンは間違いなく『コーラン』を読んでいたはずで(英訳に先行するラテン語訳で)、ミルトンが面白いのは、ユダヤキリスト教の神話に(エデンの園で、アダムとイヴを唆すのは、神に追放され蛇に化けたサタンなのだ)、『コーラン』の観念・考え方が融合されていることなのだ。…他方、ムスリムイスラム社会では、近代にはいるとずっとミルトンにおける『コーラン』的な発想が議論されてきたのだ、という。もともと『コーラン』と『聖書』は似通ったところがある。だが、もっとも英国的と思っていた(私が)もののなかに、イスラムの深い観念・考え方・しるしがまぎれこんでいるとは、真実、驚きだ。さらに、この本(Islam Issa, Milton in the Arab-Muslim World)は、韓国では翻訳されているが、翻訳大国と呼びたがる日本では翻訳されていない、ことも面白い。