W. G. ゼーバルト『カンポ・サント』(鈴木仁子訳、白水社)

コルシカ島への旅で始まる。コルシカ島については、ナポレオン・ボナパルトの生地であることしか知らない、と書いている。本当だろうか。ゼーバルトは、ナポレオンのアルプス越えから始まる小説を書いている。ナポレオンという歴史的に派手な人物とは裏腹に、この旅の文章は、静かで、言葉がはっきりしていて、素晴らしい。翻訳は、原文の良さを伝えているように思える。コルシカ島には、今、類まれな森が残っている。地中海域の豊かな森は、紀元前に大方伐採されその姿を消してしまった。この紀行文の後ろのほうにフロベールが顔をだす。何について書いてあったのか。思いだせない。しかし、現代にこのような重厚な作家・知性が存在したとは。人を威圧するのではない。作家は静かに自己との対話を続けていく。小説や書かれたものの表現形式と受容がすたれ終わろうとしている時代にW. G. ゼーバルトが生きていた。が、作家は2001年に交通事故(!)で亡くなる。この本は、彼の死の直後、友人によって編まれたエッセイ集なのだ。