鴨長明『方丈記』(岩波文庫)

大火、大地震、飢饉といった災害の話が、これでもかこれどもかといった感じで綴られる。それら災害の話のなかに遷都(長岡京か)が入っているのが面白い(旧都は荒れ、新都はいまだ整わず)。それから、自分の来し方が語られる。父方の祖母のところで育つが、その縁も切れる、と書いてある。わずかな要点のみ記されているのが、逆に想像力を刺激する。あまり幸せでなかった半生を思う。自分の移動できる庵の説明が面白い。気にいった土地で勝手に暮らすのだ。経済的裏づけがどうなっているのか気になるところだ。兼好同様、楽器をもっている。人に聞かせる音楽ではないので、うまくはなくとも十分に楽しいのだと言っている。六十歳の老人が十歳の少年をつれて野山に遊ぶ。食用の野草をとったり、山に登ったりする。それも怪しい雰囲気がないではない。